家族信託をスムーズに機能させるためには、何よりも「信託契約書」の内容が明確で正確であることが欠かせません。契約書は、委託者・受託者・受益者の権利義務を定め、将来的なトラブルを防ぐ「設計図」のような存在です。
しかし、法律上の表現や条項の解釈を誤ると、意図しない結果を招くおそれもあります。弁護士に依頼すれば、法的リスクを踏まえた条項設計や、相続・税務まで考慮した一貫した文書作成が可能です。
ここでは、弁護士に依頼することでどのようなメリットが得られるのかを、制度運用・将来リスク・書類作成・フォロー体制の観点から詳しく見ていきます。
弁護士に依頼するメリット
以下では、弁護士に家族信託を依頼するメリットを、制度運用・将来リスク・書類・フォロー体制という観点から整理します。
適切な信託契約書をスムーズに作成できる
信託契約書は、委託者・受託者・受益者の関係を明らかにし、どの財産をどのように管理・運用・処分し、どのタイミングで受益が発生するかなどを定めるものです。
口頭合意だけで契約が成立するのが信託契約の特徴でもありますが、実務上は「書面化」「公正証書化」しておいた方が、後からの争い・改ざん・紛失・手続き遅延を防ぐうえで安心です。 弁護士に依頼すれば、(1)契約書の構成(当事者、信託財産、目的、期間、終了事由など)を法律的観点から整理、(2)過去の紛争・判例・制度未確定部分を踏まえた条項を検討、(3)相続・遺留分・登記・税務などと連携しながら不備のない体裁を整えるという流れが可能です。
たとえば、将来、受託者が財産を運用している中で家族から「どう使っているんだ」と問われたとき、この契約書が「合意の枠」になっているかどうかが重要です。弁護士による設計・チェックを入れておけば、こうしたトラブルを未然に抑えやすくなります。
したがって、「契約書を自分で作った」「専門家を入れずに進めた」というケースは、将来リスク(※特に家族間の争い・遺留分トラブル)を抱えやすいと言えます。
信託設計や契約内容を法律的にアドバイスしてもらえる
家族信託は柔軟性が高い制度であるがゆえに、設計の自由度がある反面、「誰が委託者・受託者・受益者となるか」「どの財産を信託財産とするか」「受益者をいつ・どのように切り替えるか」など設計時の選択肢は多岐にわたります。
弁護士であれば、これらの設計上の選択肢について、法律・実務・家族事情・将来予測を踏まえたアドバイスが可能です。たとえば、次のようなケースが挙げられます。
- 将来認知症になったときのために、委託者=受益者、受託者=子、という構成をどうするか。
- 受益者を配偶者→子ども→孫という順番で指定できる「受益者連続型」信託を使うかどうか。
- 受託者の権限をどう限定・監督するか(例えば信託監督人を設けるか)など
こうした設計上の判断には、税務・登記・将来の家族変化・相続人の可能性・遺留分の関係などが絡んでおり、単に書類をつくるだけでは不十分です。弁護士は「紛争予防」「将来のリスク予測」が可能な専門家という位置づけです。
このように、設計段階から専門的な視点を入れておくことは、後になって「こうしておけばよかった」とならないために非常に有効です。
遺留分・将来紛争リスクへの備えが可能
家族信託をめぐる最大のハードルのひとつに、「遺留分」の観点から、他の相続人との関係で将来争いになりうる構造がある点が挙げられます。実務上、家族信託は比較的新しい制度であり、判例が十分蓄積されているとは言えないため、制度設計や契約内容の妥当性が後々争われるリスクがあります。
たとえば、信託契約によって「受益者を特定の孫まで続ける」といった設計をしたが、他の相続人から「自分の遺留分が侵害された」として異議を唱えられる可能性があります。こうしたとき、契約設計・条項・説明過程・合意取得プロセスがしっかりしていることが、将来の争いを防ぐ鍵となります。
弁護士に依頼すれば、遺留分の侵害を回避できるかどうかの法的見通しを出してもらえます。また、契約書条項を「争ったときに裁判所でどう判断されるか」を想定しながら設計することも可能です。
このように「争いにならないための備え」を制度設計に織り込むという意味で、弁護士の関与は非常に価値があります。
組成後のフォロー体制・監督機能を担える
家族信託を設計して契約書を締結したら終わり、というわけではありません。信託を運用する中で、受託者と受益者・他の親族との間で疑義や争いが生じる可能性があります。たとえば、受託者が信託財産を運用する中で他の相続人や受益者から説明を求められたり、運用先の変更・処分・収益分配について意見が分かれたりすることが考えられます。
このような運用フェーズにおいて、弁護士は次のようなフォローを担うことができます。
- 契約書どおりに手続きが行われているか、信託監督人として関与する。
- 受益者代理人として、意思能力の低下した受益者(高齢・障がい等)の利益を代弁する。
- 将来、紛争化した際に代理人として交渉・訴訟を担当できる。
- 定期的なチェックや運用状況の検討を受託者とともに行うことで、運用が「契約の想定どおり」に進んでいるかを確認できる。
このように「設計⇒契約⇒運用フォロー」というトータルな視点で対応できるのが、弁護士の大きな強みといえるでしょう。
依頼による注意点はある?
弁護士に依頼すれば、もちろん報酬・費用が発生します。契約書作成・設計アドバイス・フォロー体制構築などを含めると、他の専門家(たとえば行政書士)よりも高額になる傾向があります。
ただし、「専門家を介さずに進めたが、後から争いになって大きな費用がかかった」「契約書不備で登記できずに更に別途コストが生じた」といった事例も散見されます。こうした将来のリスク費用を考えれば、設計段階で弁護士を活用する意味は十分あると言えます。
注意点としては、弁護士に依頼したからといって、登記・信託口座開設・税務申告などが自動的に終わるわけではないことです。登記は司法書士、税務申告は税理士との連携が必要なケースが多いです。
さらに、契約書の内容がいくら綿密でも、家族の信頼関係・運用状況・受託者の実行力・説明状況など“運用フェーズ”の実践が伴わなければ、期待どおりの効果が出ない可能性があります。運用・フォローの体制をどう確保するかも重要です。
いきなり複雑な設計に走らず、ご家族の財産規模・家族関係・想定する将来シナリオを整理したうえで「本当に家族信託が最適か」を検討することが重要です。弁護士はその判断も手伝ってくれるでしょう。
まとめ
家族信託を安心して運用するためには、契約書の作成だけでなく、信託設計・法的チェック・運用フォローを含めた総合的なサポートが重要です。弁護士は、契約内容を法的観点から整備し、遺留分や紛争のリスクを未然に防ぐことができます。
また、契約後も監督人や代理人として継続的に関与できる点も心強い特徴です。費用面では他の専門家より高くなることもありますが、後々のトラブル対応や再契約の手間を考えれば、結果的に大きな安心と合理性を得られます。弁護士の関与は、家族信託を「安心して続けられる仕組み」とする選択の一つと言えるでしょう。